用語解説
「具体的な他者に対する〈信頼〉」 【ぐたいてきなたしゃにたいするしんらい】
- 「確かにおのれをさらけだし、“腹を割る”ことは、一面では〈間柄〉に新たな負担を持ち込むと同時に、相手に弱点を悟られたり、交渉が決裂したりするリスクをも孕んでいる。しかしそこで「意味のある〈関係性〉」を育むことに成功すれば、そこには代えがたい〈信頼〉が残るのである。人間は、相手から〈信頼〉されていると感ずるとき、おのれもまた相手を〈信頼〉しようとする。それは〈信頼〉が、相互に責任を伴うものだからである。そして互いの〈信頼〉によって何かを克服しえたとき、そこにはよりいっそうの〈信頼〉と同時に、それに見合うだけの責任が発生する。」 (上巻 269-270)
「〈共同〉のための作法や知恵」としての〈信頼〉の原理の一形態で、特定の人格的な他者との間に形作られるもののこと。
〈信頼〉の本質とは、盲目になって何かに身を任せることではなく、あやふやで、眼で見たり、触って確かめたりすることができない何かを、それでも信じることにある。この場合は、相手が裏切ったり、不正を働いたりするリスクを承知の上で、相手の言葉や態度を信じることを指す。
もちろんこうした〈信頼〉は、誰とでも構築できるものではないが、互いが「相手を知る」こと、つまり互いの背負った「〈関係性〉の場」に触れ、「〈我‐汝〉の構造」を介して向き合ったり、〈共同〉の経験を重ねたりすることを通じて、そこに「意味のある〈関係性〉」を育むことに成功すれば、かけがえのないものとして形作られる場合がある。
これよりも消極的なケースでは、例えば〈共同〉の現場において、一般的に「〈共同〉のための事実」や「〈共同〉のための意味」、「〈共同〉のための技能」が共有されているとき、人々は相手を〈信頼〉しやすくなる。