ディスカッション


未来世界を哲学する―環境と資源・エネルギーの哲学)
未来世界を哲学する
環境と資源・エネルギーの哲学


〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「〈共同〉のための作法や知恵」 【きょうどうのためのさほうやちえ】


 「古の時代より、人間にとって〈共同〉とは“逃れられないもの”であった。それゆえ人間は、その逃れられない〈共同〉を円滑に実現していくための、〈役割〉、〈信頼〉、〈許し〉といった原理を生みだしてきたのであり、現実の〈共同〉実践は、まさしくそうした「〈共同〉のための作法や知恵」に支えられることよって可能となってきた側面があるからである。」 (上巻 265



 人間存在が「共同行為」としての〈共同〉を実現させるために、〈共同〉の負担を少しでも緩和させようとして歴史上構築してきた知恵や作法のことで、大きく〈役割〉〈信頼〉〈許し〉の原理がある。

 〈共同〉を実践することは人間の本性に基づくものの、その行為の成立は無条件に実現するわけではない(「100人の村の比喩」)。十全な形で〈共同〉を実現するには、「人間的〈関係性〉」の文脈で言えば、「意のままにならない他者」との〈関係性〉がもたらす負担を乗り越えるだけの求心力がなければならず、そこには少なくとも「〈共同〉のための事実」の共有、「〈共同〉のための意味」の共有、「〈共同〉のための技能」の共有といった契機が不可欠となる。

 それでも〈共同〉の負担がゼロになることはなく、「〈共同〉のための作法や知恵」はそうした負担を緩和させるために構築されてきたと言える。なお、こうした〈共同〉のための条件が崩壊し、〈共同〉のための作法や知恵が失われていくことで、「共同行為」自体が成り立たなくなっていくこともまた、〈自己完結社会〉の一つの本質的な側面である。