ディスカッション


未来世界を哲学する―環境と資源・エネルギーの哲学)
未来世界を哲学する
環境と資源・エネルギーの哲学


〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈悪〉(「素朴な〈悪〉」) 【あく】


 「前提となるのは、人間に内在する素朴な〈悪〉というものについての理解である。すなわち人は誰しも、貪欲、邪見、執着、嫉妬、吝嗇、傲慢、憎悪、虚栄、怠惰、卑屈、憤怒、焦燥といった「情念」の“種”を持って生まれてくるということ、そしてそうした“種”は、さまざまな条件下において、常に「悪意」――他人を意図的に貶めたり、傷つけたりしようとする――や「不誠実」――卑怯な手段で相手を出し抜いたり、約束を反故にしたり、責任を放棄する――となって芽吹きうる、ということである。」 (上巻 268-269



 特定の価値判断に基づく“悪”とはまったく異質の概念で、人間社会に多大なわざわいをもたらすものでありながら、同時に人間の本性に深く内在し、それゆえ人間が人間である限り決してその根を絶つことができないもののことを指す(〈有限の生〉の第四原則「人間の〈悪〉とわざわいの原則」)。

 具体的には、貪欲、邪見、執着、嫉妬、吝嗇、傲慢、憎悪、虚栄、怠惰、卑屈、憤怒、焦燥といった邪な感情を抱く「情念」、他人を意図的に貶めたり、傷つけたりしようとする「悪意」、卑怯な手段で相手を出し抜いたり、約束を反故にしたり、責任を放棄する「不誠実」によって「素朴な〈悪〉」の三大要素を構成する。

 「共同行為」としての〈共同〉を実現するためには、こうした「素朴な〈悪〉」がもたらすリスクを克服できる〈信頼〉の契機が不可欠となり、それを特定の他者との〈信頼〉によって乗り越える場合(「具体的な他者に対する〈信頼〉」)と、集団によって制御する場合(「(集団的に共有された)人間一般に対する〈信頼〉」)とがある。