ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「共同行為」 【きょうどうこうい】


 「注目したいのは、“共同”概念には前述のように、やや異なる二つの意味合い、すなわち①「何かを一緒に実行する」ための能動的な“行為”に重点を置く意味合いと、②「同等の資格」といったように何かが「共(とも)に同(おな)じ」であること、「同一性」や「同質性」を含む“状態”に重点を置く意味合いが同時に含まれているということである。語源に即せば、共同の本来の意味は①であることが分かる。本書では、この①の意味での共同を「共同行為」としての〈共同〉という形で改めて定義し、それを人間存在の本質を説明するための基礎概念として整備していくことを試みよう。」 (上巻 246



 「牧歌主義的―弁証法的共同論」の影響によって、共同概念がしばしば「相互扶助的で共感的なあり方」や「社会性一般」と置換可能な“状態”としての意味合い(共同性)で語られてきたことから、共同概念に元々備わる「複数の人間が何かを一緒に行う」といった“行為”の側面を強調する場合にこのように言う(本書ではそれを〈共同〉と記述する)。

 「牧歌主義的―弁証法的共同論」では、「自由な個性と共同性の止揚」という魔術的なレトリックによって、あたかも「共同行為」が、自由選択と自発性によって、何の負担も伴わず無条件的に成立しうるかのように論じられる。

 しかし「共同行為」が十全に実現するためには、その負担を乗り越えるためのさまざま契機が必要である。「〈共同〉のための事実」の共有、「〈共同〉のための意味」の共有、「〈共同〉のための技能」の共有、あるいは〈役割〉〈信頼〉〈許し〉といった「〈共同〉のための作法や知恵」は、こうした契機に関わるものである。