用語解説
「意のままになる他者」 【いのままになるたしゃ】
- 「われわれが「ありのままの私」を受け入れてほしいと言うとき、実はわれわれは潜在的に「意のままになる他者」を求めていると言える。もちろん人間は、誰もが他人の心、行動、評価などを「意のままにしたい」と願う原初的な欲望を秘めていると言えるかもしれない。しかし改めて想像してみてほしい。人間が〈関係性〉のなかで“充実”し、“喜び”を感じるのは、はたして本当に他人が「意のままになる」ときなのだろうか。」 (上巻 227)
〈他者存在〉の根本原理に反した概念で、〈社会的装置〉に依存する「〈ユーザー〉としての生」が拡大した社会において、〈自立した個人〉の思想が浸透した結果として、他者や世間からの一切の抑圧を受けない「ありのままの私」や、そうした自己の唯一性が讃えられるべきだとする「かけがえのない私」、〈関係性〉の網の目から切り離されても成立しうると認識された「この私」の概念などが拡大していくなかで、人々が求めるようになるもの。
「意のままになる他者」とは、「ありのままの私」や「かけがえのない私」、「この私」にとって、単純に都合の良い他者であるにすぎない。そのためこうした他者との間には「意味のある〈関係性〉」は成立せず、「意味のある私」もまた成立することはない。